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福岡地方裁判所柳川支部 昭和23年(ぬ)43号・昭23年(ぬ)44号 判決

右被告人等に対する電気事業法違反被告事件につき検察官杉本覚一関与の上左の通り判決する。

主文

被告人三名は各無罪。

理由

本件公訴事実の要旨は

被告人森田收蔵は電気産業労働組合(以下電産と略称する)福岡県支部大牟田分会の執行委員長、被告人淸原永は同分会の副執行委員長、被告人河口吏人は同分会の執行委員であるが、

被告人森田收蔵は公益事業である電気事業の関係当事者に於ては労働関係調整法第十八条第一項第五号に基き昭和二十三年九月十七日政府より中央労働委員会に対して為された強制調停の請求により同日より三十日を経過した後でなければ争議行為を為すことは出来ないのに拘らず同年十月六日前記支部の鬪争指令第一号に基き大牟田市不知火町二丁目九州配電株式会社大牟田営業所内の前記分会内に於て該分会役員十数名と数回に亘りストライキ対策を協議の上ストライキ計画を決定し翌七日組合員大会に諮り其承認を得た上自己の責任の下に

(1)  同年十月八日午後八時より三分間專用線、燈台線、電車線を除く全線の停電ストライキ。

(2)  同月九日零時より四十八時間の野放送電ストライキ。

(3)  同月十一日午前八時三十分より同十二時迄專用線の停電ストライキ(但し当日の午前中は三級制限による休電日)

(4)  同日午前十一時より二十分間大牟田市内電車線の停電ストライキ。

を敢行し

被告人淸原永、河口吏人は其指導の下に

(5)  同月十五日午後四時四十分より二十分間同市内電車線の停電ストライキ。

(6)  同日午後四時三十分より一時間不知火專用線の停電ストライキ。

(7)  同日午後六時より二時間一般電燈線の停電ストライキ。

を敢行し、以て夫々電気の供給を妨害した者であると謂うのである。

仍て審究するに本件右公訴事実自体は被告人等に於て大略自認するところであるが、本件各証拠と各訴訟関係人の各主張とを彼此綜合考察するときは、本件争点の中心は要するに改正前の労働関係調整法第三十七条を如何に解釈すべきか、即ち (一)電産は昭和二十二年九月十九日労働関係調整法第十八条第一項第三項に基いて中労委に対して電気事業民主化、賃金スライド制、労働協約の締結等の問題に関して調停の申請を為し、三十日目の冷却期間を経過した同年十月十九日直に争議行為に訴え得る権利所謂具体的争議権を取得したが該権利は昭和二十三年三月二十五日成立した所謂三月仮協定に因つて消滅したか否か、(二)消滅しないで存続したとして政府が同年九月十七日同法第十八条第一項第五号に基いて為した強制調停の申請に因り、具体的争議権の行使は少くとも右強制調停申請の日から三十日間は中絶さるべきものであるか否か、(三)本件は具体的争議権の行使として果して権利の濫用となるか否かにあるのである。凡そ争議解決の協定が全面的に且具体的に決定した場合は格別、要求事項の一部についてのみ具体的な内容を持つ協定が成立しても爾余の要求事項については爾後の折衝に讓ることとした場合、争議としては一応之を打切る旨の諒解が成立しない以上直に争議目体は終結し従て具体的争議権は消滅したとは一概に断定し得ないと解すべきである。なぜならば以上の場合争議当事者に於ては平和的交渉によつてのみ争議を解決する意思を有するものとは限らず、却て争議状態をつづけながら事を解決しようとの意思を有するものと認むべき場合も存在し得るからである。

しかして前記三月仮協定の内容を審究するときは前記の電気事業民主化、賃金スライド制、労働協約の締結の要求事項については、殆んど大半原則的に協定が成立し其具体的内容に関しては爾余の当事者の協議又は中労委の斡旋によつて決定さるることとなつていたものと解すべきである。又他面昭和二十一年九月より同年十二月に至る電産の所謂第一次争議に於ては同年十一月三十日仮協定が成立したが、争議状態をつづけながら同年十二月二十二日本協定が成立した事実があり、前記仮協定成立当時に於て争議行為中止を協定条項の一つとして明文化するか否かが当事者間に問題となつたが、電産は強く之に反対し結局に於て自主的に中止はしたものの右明文化は実現しなかつた事実が認められる。以上の各種の事情に徴するときは前記仮協定は全面的且具体的解決を後日に讓り前記三項目等に関して大綱のみを決定した所謂仮階的解決手段に過ぎなかつたと解すべく、従て右仮協定によつて具体的争議権は消滅しなかつたと断定すべきである。

而して右仮協定成立後当事者間に於ては前記三項目等に関する大綱についての具体的細目の協議決定は一向に進捗しなかつた為、電産は昭和二十三年五月開催された上諏訪大会に於て右三月仮協定の内容を完全に鬪いとることとし、地域鬪争手段として停電ストライキを含む実力行使を行う旨の方針を決定し、電産福岡県支部に於ても同年九月右方針に従て地域鬪争を敢行することとし、翌月四日傘下各分会に対し十月七日午前零時を期して停電ストライキを含む実力行使に突入せよとの鬪争指令を発し、被告人等の所属する前記分会に於ても前記方針に従うこととなり、本件起訴に係る停電が実行されたことを認むることが出来る。先是政府は前記の如く昭和二十三年九月十七日中労委に対して強制調停の申請を為したのであるが、前段に於て認定した通り電産に具体的争議権が存続していたとすれば右強制調停の申請に因つて該権利に如何なる消長を来たすかが次に判定さるべき問題である。既に具体的争議権が存する場合調停の申請が為された以上争議行為を為し得ないとすれば調停によつて冷却期間を繰返えし公益事業については争議権を事実上有名無実化することも可能となることを考慮すればかかる解釈は到底是認し得ないであろう。このことは改正前の労働関係調整法第三十七条但書の所謂追加指定権の行使に対する制限規定が設けられている点よりするも推論し得るところである。尤も公益事業に於ては争議行為が特に直接公衆の日常生活に甚大なる影響を及ぼすから調停によつて解決を図り極力争議行為に訴えることを回避すべきことは言を俟たないが、之を法律上の義務として強制し前記解釈を覆えし得ないものと解する。

最後に本件が争議本来の目的を逸脱し争議行為として争議権の濫用に出でたものであるか否かを判断するに、本件停電が前記の如く全国大会及福岡県支部の方針指令に基いて行われた経緯、停電の範囲は進駐車及保安関係等を除き且一般公衆に対しては事前に予告する等の措置を講じた事実、停電の時間、回数等についても相当の注意を払い起訴事実に掲示された程度であつた事実、前記(5)乃至(7)の停電に於ては官憲の不当彈圧に対する抗議と言う目的にも含めて実行されたことが窺知されるが〓は謂わば副次的目的に過ぎなかつたとも解さるる点を彼此考察するときは前記各所為は争議本来の目的を逸脱した争議行為として権利の濫用に亘るものとは認定し得ない。

敍上説示の理由により本刑は労働組合が其労働条件改善の為正当なる争議行為として為したものとして労働組合法第一条第二項の適用を受け違法性を欠除し電気事業法第三十三条違反罪を構成しないものとして刑事訟訴法第二条、旧刑事訴訟法第三百六十二条に則つて無罪の言渡を為すべきものとし主文の通り判決する。

(裁判官 塚本富士男)

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